仮想的に自殺した
- みりん
- 2022年6月2日
- 読了時間: 11分
見なければいい、気にしなければいい、たったそれだけの事なのだがたったそれだけが難しい。右手にぎゅっと握ったスマートフォン。わかりやすい位置にあるツイッターのアイコン。ほめて箱の青いリンクの先にはどんな言葉が待ち構えているのか。見なければいいのに見てしまう。何もないことを確認して安心したいから。何もない訳がないのに。
封筒のアイコンに40の数字。嫌にうるさい心臓の音と共に開封する。ありがたいことに、その全てが肯定と励ましの言葉だった。よしもう大丈夫、大丈夫と思い一旦画面を閉じる。しかし数分後にはまた気になって見てしまう。41の文字。大丈夫、さっき見た時は大丈夫だったから次も多分大丈夫なメッセージのはず。そう思って開封した。毒マロなんかじゃない、現実的なアドバイスと励ましの文章だった。ただそれを読んでなにかがぷつりと切れてしまった。世界から音が消えて身体が何倍も重くなって、鳩尾に何かを押し込まれるような感覚がして、あ、あ、あもう無理、もう無理と錯乱してしまった。決して毒マロなどではないのに、「その点ばかりをずっと反芻されても」とか「吉牛待ちに見える」とか、ワードワードを切り取って目が嫌な部分だけを掬いとる。「今回の本質は〇〇で、その点は十分に反省されているので、謝罪も説明もしましたと堂々としていてください」とその先に優しい言葉が続いているのに。応援していますとも言ってもらえているのに、目は嫌な部分だけを掬って頭の中でガンガンとリフレインさせた。
すると急激な眠気に襲われる。何故だかはわからないが、ここ連日ずっとそう。寝ても寝ても眠い。鳩尾に何かを押し込まれると同時に強い眠気がやってくる。脳みそがシャットダウンするみたいに。生きるのを拒絶するみたいに。
それでまた暫く寝て、気合で起きて電車に乗って稽古場(仕事)に向かった。イヤホンをねじ込んで好きな音楽を爆音で流すが耳に入ってこない。身体はふわふわと宙を浮く。そして信号待ちの最中、急に膝から力が抜けて、ああこれは良くない奴だな、と思いながらも稽古場にはいかなければならない。
演劇繋がりの一部の人からは、私ははつらつとした人間だと思われている。基本笑顔で元気がある。だからどんなにしんどかろうと稽古場では笑顔でいたかった、のに、顔を作れなかった。驚くほど低い声が出た。いけない、これは本当に良くない。アカウントを消した。仮想的に自殺した。
と言うのが前書きです。ここを見ている人たちはきっと私に好意的、だと思いたい。ので本音で話します。
事の始まりは5月。好きな作家さんの新刊を読みました。暗い話で何でも許せる方向けと書いてあったけど、本当に好きな作家さんなのでどきどきしながら読みました。暗い話らしいから、もしかしたら死ネタかもしれない。でもそうは書いてないし、いやでも何でも許せる方向けって書いてあるし、いやでも死ネタとは書いてないしと一人であーだこーだ言いながら開いて、以降はみなさんもご存じの通りです。
自分は物語に感情移入しすぎるタイプで、友人と映画を観に行っても、両サイドはケロリとしているのに真ん中の私だけ号泣している、なんてことがよくあります。数日は引きずります。それが物語として面白ければ面白いほど、世界に沈んでしまう。その作家さんの話は本当にレベルが高くて、絵も好きで、だから気づけばのめり込んで読んでいて、あ、これはもしかした死ぬやつかもしれない、と一瞬思ったけれどページを繰る手は止められない。読み終わった時、ずどんと心臓が重くなった。親戚の葬式の時と似た感情だった。凄い物を読んだな、と思った。数日引きずったし夢にも出た。
しかしそれは、作品が悪いとかそう言う話じゃなくて、単純に私が感情移入しすぎたというだけの話。そしてその作品がめちゃくちゃレベルが高かったという話。読み終わった直後は衝撃のあまり死ネタなら死ネタと書いてくれよと真剣に思ったけれど、でもそもそもは何でも許せる方向けの本をなんでも許せない人間が読んだのがいけない。
その時ツイッターで騒いだ。すごい死ネタを読んで精神が死んだとかそう言う感じの事を言った気がする。何度かツイ消ししたので覚えていない。ただ誤解されるといけないから、その話は映画みたいでめちゃくちゃ素敵で、みたいなことも書いたと思う(具体的な内容には触れていない)。マイナスの感情はないとアピールしたかった。でもどの作品のことを言ってるか伝わるといけないから消したと思う。今思えば変に書いたり消したりしたから余計ややこしくなったのかな。もう本当に何度でも言うけどあの作品もあの作家さんも私は好き。本当に好き。箱で指摘されたけど「むりすぎる」とかも言ったかもしれない。ただそれは作品が無理だったという訳じゃなくて、クッションなしで死ネタがいきなり来るのが無理とかそういうつもりだったんだと思う。しかしその文脈で察しろと言う方が無理な話で、これは本当に申し訳ありませんでした。
死ネタ、特に死別が私は苦手だ。後に残された方の事を思うと苦しくなるから。寿命差があるから、彼が死んだあと何年も何十年も何百年も生き続けなければならない彼のことを思うと苦しくなってしまうから。だからできるだけそういった話は避けるようにしていた。どうしても好きな作家さんの場合は、めちゃくちゃ深呼吸してから読んだ。ほら注射とかでさ、いきなりぶすっと刺されるとびっくりするけどさ、刺しますよーって言われてからならある程度覚悟が出来るじゃない。そういうやつ。
しかしこの界隈、何故か注意書きなしの死ネタがめちゃくちゃある。件の作品は「なんでも許せる方向け」とあったがそれすらなしに読んだら死んでる、という事が度々ある。その度ぐおおと殴られるような衝撃を食らい、現実と非現実に区切りを付けられない私はその気持ちをひきずって数日過ごす。
最初のころは何で注意書きせんのやふざけとんのかおいこらと心の中でキレ散らかしていたのだが、件の作品を読んだときに、「じゃあ私は死なない話を書けばいいんじゃね?」と思い至ってあのアンソロの登場である。私もあんな、人の心を動かせる話が書きたい、と。
そもそも死ネタに注意書き云々は絶対のルールではないし(ないんだよね?)作家さんに「注意書きしてください」と直接言うなんて馬鹿のすることだし、かといって自衛も難しい。じゃあどうするか。同じぐらい死なない話がいっぱいあったらいいんじゃない? と。死ネタがあるのはそれはそれでよくて、じゃあ死なない話もいっぱいあっていいじゃん、これでwinwinじゃん、とそういうつもりで企画した。誓ってあてつけなどではない。
しかし言い方が悪かった。タイミングも悪かった。箱で指摘されたように、どの作品を読んだか分かる状態で(特定されるようなツイートはすぐ消したつもりだったけど)、地雷を踏んだと過剰に騒ぎ(あれが私の通常運転なのだが声がでかいので過剰に見える)、じゃあ死ネタと対になるアンソロつくったるわ! なんて言うたらそりゃあてつけに見えるよなぁという。件の作家さんには本当に申し訳ないことをしたと思っています。本当にすみませんでした。
その後「死ネタが地雷のハピエン厨これにいいねして!」なんてツイートしてそれもまた火に油を注いだ形になった。そりゃ怒るよなっていう。ただ私としては、同じ性癖の人間がどのくらいいるか知りたかっただけ。あとアンソロにもう2人くらい誘いたくて、相互さんでいいねくれた人がいたら声かけしようかなと思っていた。(相互さんの性癖も把握しきれてないので)
この件、箱で上手に例えてくれた方がいて、「好き嫌いとかじゃなくて自分はシーフードアレルギーなんだけど、同じ人ってどのくらいいる?」って、本当にそういうつもりだった。別に「俺アレが嫌いやねんお前も嫌いやろ仲間―!」とかしたかった訳ではない。
それで「死ネタ地雷ってそれしか言うことないんですか?」といやぁな気持ちになる箱を貰い、なんやこいつと思っていたら、とある人から箱が来た。だいたいの内容はこう。「いつぞや、某作品の読後と分かる形であれこれツイートして、地雷だからアンソロを作ると言って、あれはよくなかった。自分はあの作家さんが好きだから、地雷なんだったら本を譲ってほしい。あなたの事は嫌いではないが、作品を特定される形で地雷発言するのはいかがなものか」
滅茶苦茶反省した。具体的な作品名や内容に触れなかったから特定されないだろうと踏んでいた。考えが甘かった。滅茶苦茶反省して、上に書いたこと全部説明して謝った。そりゃ好きな作家を悪く言われたら誰だって気分悪いわ。悪意の有無とか関係ないねん。私の一連のツイートを客観的に見た時、そう解釈できた。だからこれは私が悪い。ない語彙振り絞って謝った。その人も謝ってくれた。「好きな作家さんに好きな作家さんを悪く言われたようで悲しかった」と言われた。もっと考えてからしゃべろうと思った。
それはそれとしてだよ。私に意味不明の毒マロが送られてきたとき(支部の非公開云々のやつ。まじで意味わからん奴)「画面の向こうに生身の人間がいるって理解していますか? 私にこれを送る前にちゃんと考えましたか?」みたいな強めの返信をした。するとそれに乗っかる形で、じゃああなたはそんな事言うけど、件の地雷云々で騒いだ時作家さんの気持ち考えてたんですか? と。嫌いを振りまいてどういうつもりだったんですか!? とそんな感じの箱が来た。指摘はひとつ前に貰った箱とだいたい同じ内容だったが、やたらと言葉が強かった。ああまた同じ説明をして同じ謝罪をしないといけないのか、でもそもそもは私がまいた種だしな、真摯に謝罪をしなきゃ、前みたいに、と思ったが、前に箱をくれた人は真摯だったがこの人はそうでもない。「一言いいですか!?」よくない。ここはそもそも褒めて箱なのであなたが一言いう所ではない。あとなんだか、もやもやした。
このもやもやをとある方が箱で言語化してくれた。「宛名のあるメッセージと宛名のないツイート(独り言)を同じ土俵で比べてくるのがフェアじゃない」と。これが本当に嬉しかった。私が言いたかったのはこれだと思った。特定の誰かに向かって「私あなたの書いてるもの嫌いなんですよ!!!!」と突撃したらそれは最悪だし死ぬべきなのだが、わたしのアレは盛大な独り言である。だからそれを「嫌いを振りまいている」とか悪感情だと捉えられたのに驚いた。(※そのつもりがなかったとは言え特定の作品について無理無理言うてるように見えるツイートをしていた事は理解しています。本当に申し訳ありませんでした)
あとなんだっけ、もう一件来たのよ。「あなたが死ネタを書いた作家さんを傷つけたこと忘れませんから!」とか「少なくとも複数人が同じこと思っています」とか「痛い所つかれたからって毒マロ扱いして」とかって。その頃にはもうほとんど私疲れ切ってて、どんな返信したっけな、きっとまともじゃなかったな。でも謝ったかもしれないな。今思えばこいつに関しては謝らなくてよかったな。
そもそもお前は何やねん誰やねん名乗れや。なんでお前他人の気持ちを勝手に代弁してんねんおかしいやろ。一番最初に箱をくれた人に私が謝ったのは、その人が私のツイートの何でどう傷ついたかって真摯に教えてくれたから。でもお前はなんやねん。どの立場でもの言うてんねん。「あなたのツイートで私は傷つきました」でええやろがい。あと複数人って何やねん。自分入れて3件しか来てないけどまあ3件って複数人か。なんやろ、言葉の端々に悪意を感じた。傷つけてやろーって感じた。それは私が件の作家さんを傷つけたから(一回も喋ったことないのでわからないけど)その報復のつもりなんだろうけど、なんかさ、それは違うよね。違うと思うよ。上手く言葉にできないけどさ、あなたのそれは、間違った正義だと思うよ。もうやめなね。
んで最後に、最初に書いた41件目のメッセージ。本当に酷い返信をしました。本当に申し訳ありませんでした。もうわかってるわかってるからこれ以上言わないでってちょっとしたパニックになってた。ごめんなさい。折角気遣ってくれたのに。
たくさんたくさんメッセージをありがとうございました。全部に返信したいです。でもまだ怖くてできません。嬉しい言葉をたくさんもらった。ほんとに救われました。お風呂の中で泣いちゃった。言葉足らずなせいでこんなことになってしまったけど、みりんさんが言いたかったのはこういうことですよね? とかアンソロの意図ってこうですよね? って私が言いたかったこと全部全部言語化してもらえて、こんなにわかってもらえて、愛して貰えて、なんかもうもったいなくて、もったいなくて、ありがとうございます。本当にありがとうございます。嬉しい気持ちって言語化するの難しいな。文章上手になりたい。
こうやって思い返してみたら、とげとげした箱はちょっとしかもらってないのに、肯定の言葉はその何倍も何倍も貰った。それなのに、たった数件の言葉が刺さって抜けなくてまだ血が止まらなくて。とかって言うと被害者面って思われるかもせんけど、いや違うのよ、でも一回刺さった言葉って痛くて抜けない。それは最初に箱をくれた人もそうよね。私の言葉が刺さって痛かったんだもんね。本当にごめんなさい。
という訳で仮想的に自殺しました。また書けるようになるかしら。なるといいな。それではみなさま、よき倫理を。ヒョロワー! 愛してるよ!!!!!!!!! グッナイ!
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