音を拾う春の夜は音で溢れている。静寂が張り詰める冬のそれとは対照的で、例えば人の話し声だとか、虫の羽音だとか、風の音だとか。存在するものはさして変わらない筈なのに、春の柔らかい空気は全ての音を優しく拾う。今もほら、開け放たれた窓からは、風に乗って楽し気な笑い声が滑り込んで来る。...
息継ぎ息をするのも忘れて、と言う。 子供の頃、風呂に潜るのが好きだった。柔らかく包まれる感触。ゆるく差し込む浴室灯の光。ぼんやりと揺れる視界。耳の中では膜を張ったような音がして、世界から隔絶されたような、ここではないどこかにいるような、そんな気持ちになった。...
仮想的に自殺した見なければいい、気にしなければいい、たったそれだけの事なのだがたったそれだけが難しい。右手にぎゅっと握ったスマートフォン。わかりやすい位置にあるツイッターのアイコン。ほめて箱の青いリンクの先にはどんな言葉が待ち構えているのか。見なければいいのに見てしまう。何もないことを確認...
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